認知症は、記憶障害を伴う認知機能の障害によって社会で活躍したり、ひとりで生活したりすることが困難になる病気です。この代表的な病気がアルツハイマー型認知症ですが、他にも脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など、認知症を主症状とする脳の病気は沢山あります。 では、何故、認知症になると日常生活が一人では営めなくなるのでしょうか。認知機能とは、簡単に説明しますと、人と人との交流に必要なコミュニケーション能力であり、また人が生活するに必要な能力でもあります。ですからこの能力が冒されると、自分の考えや希望を他者に伝えること、困ったときの適切な解決方法、物事の善し悪しの分別など、以前は問題なくできていたことができなくなります。また読んだり、書いたり、作ったり、しゃべったり、人間が持つ高度な能力も冒さ、これらの行為もできなくなります。このように、認知機能とは、知能とほぼ同じ能力で、この能力が冒されるために社会での混乱や生活上の混乱を来たし、ケアなしでは生活できなくなります。 記憶は、この認知機能に含まれる能力の一つで、医学的に認知症と診断するためには、記憶の障害がなければなりません。その上で他の認知機能も冒され、社会生活や日常生活に混乱がみられ、生活ができなくなったことが確認されると、認知症と診断します。 ここで、「認知機能の障害に伴う日常生活の混乱」とは具体的にどのようなことか説明しましょう。自分の大切な家族が認知症にかかったか否かを判断するとき、「もの忘れ」は重要な決め手になりますが、その「もの忘れ」が認知症の「もの忘れ」か、あるいは加齢に伴う正常の「もの忘れ」か、を区別しなければなりません。そこで重要なのが日常生活での変化、混乱です。「もの忘れ」があっても普段の生活で混乱がなく、これまでと全く同じような営みができていたら認知症とは診断できません。ごく初期は、「趣味に興味をなくした」「外出しなくなった」「あまり人と喋らなくなった」「家に閉じこもるようになった」「料理を作らなくなった」「『あの、その』と言った代名詞が会話に多くなった」など、混乱とは言い難い状態ですが、このように以前と違う生活の様子がみられたら要注意です。認知症の人の家族に病気の始まりの様子を詳しく尋ねると、このような変化に気づいていましたが、ただその時は「歳のせい」と気楽に考えていたようです。一緒に生活して家族は、買い物に行って帰れなくなった、銀行でお金が出せなくなった、薬の呑み方がわからなくなった、邪推がひどくなった、など、家族がご本人の対応に実際に困るようにならないと「認知症に罹ったかもしれない」となかなか思えないようです。 それ故に、認知症の最初の発見は、「その人の生活が変わった」「その人らしさがなくなった」と言ったサインが重要で、それらを見落とさないことです。 アルツハイマー病は、認知症の中の最大疾患です。 どうすればこの病気の発症リスクを少なくすることが出来るか、何に注意すれば脳の老化速度を遅くすることができるかを研究しています。 なお、認知症の発症・悪化には心理的な影響も関わっていることがあり、認知症を発症しやすい性格もあるといわれています。 まだ明らかでない部分もありますが、原因になることがわかっている病気はいくつかあり、その病気を治療することで認知症を改善できるケースもあります。 そのため認知症の改善には、 穏やかでのんびりした性格の人や、外交的で活発な社会生活を送っている人は、認知症の発症率が低いことが研究からわかっています。 一方、自己中心的、わがまま、几帳面、非社交的などの性格は認知症を発症するリスクを上げるというデータもあります。 日常生活で強いストレスを感じている人も、ストレスホルモンが増え、記憶障害だけでなく、免疫機能が低下して病気にかかりやすくなります。 活動的な生活を送る、さまざまなレジャーを楽しむ、社会的な関わりを充実させるなどのライフスタイルを送ることで、認知症が予防できるそうです。 認知症になりやすい遺伝子はある、といえるようです。 「ヒトゲノム」の解析によって、人それぞれが持つどの遺伝子がどんな病気に関係するかがわかってきたのですが、その中で、ある遺伝子に問題が起こると認知症になりやすい、ということがわかってきたようです。 最近の研究結果では、アルツハイマー病の原因として、アミロイド前駆体たんぱく質(APP)と遺伝子やプレセニリン(Presenilin)の遺伝子などに異常が発生すると発病する、という結果が出ていたり、アポリたんぱく質Eという遺伝子のうち4型を持っている人は平均60歳以降に認知症になる確率が高いとも言われています。 しかし、認知症になりやすい遺伝子を持っているからといって必ずそうなるとは限りません。同様に、持っていないからならないとも言えません。 それではわかっていないのと同じだといえばそうでもなく、少なくとも、なりやすい要因があることは、わかりつつあるのです。 昨今、若年性アルツハイマー病で特に遺伝的に発症してしまう「家族性アルツハイマー病(FAD)」が報告されています。家族性アルツハイマー病は症状の進行が速く、早期での発見および治療が重要とされています。親族にFADの方がいた場合はなるべく発症前に遺伝子診断を受けたほうがよいようです。 脳の実質の変性により、神経細胞が脱落し、脳が萎縮して生じる。代表的な病気がアルツハイマー型認知症。アルツハイマー型認知症の場合、原因についてはまだ明らかではないが、危険因子についてはいくつかわかっている。 脳梗塞や脳出血などによって脳の神経細胞に酸素や栄養が行き届かなくなり、障害が起こる。梗塞や出血の程度が大きければ一度の発作で認知症が生じるが、自覚症状がないような小さな発作を繰り返すうちに神経細胞が広範囲で傷つけられ、やがて認知症がおこる。脳梗塞、脳出血の原因となる脳動脈硬化をまず防ぐことが肝心。そのほか高血圧、高脂血症、糖尿病などいわゆる生活習慣病も危険因子に数えられる。 アルツハイマー型認知症って? 加齢による「もの忘れ」と、アルツハイマー型認知症の初期症状で見られる「もの忘れ」には、はっきりとした違いがあります。 加齢によるもの忘れでは、「昨日、何を食べたか思い出せない」ことはあっても、「食事をしたこと」は覚えています。 一方、アルツハイマー型認知症が疑われるもの忘れでは、「食事をしたこと」自体を忘れてしまうことが特徴です。